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『女子大生マイの特許ファイル』読んだ

僕は技術者なので,仕事で特許を書くことになる.

例えば,学術論文を書くとき,その分野の論文読みまくることが基本的なこととされる. 俺は様々な理由から特許を読みまくることをしたくない.

ここでは「発明」とは何かとか「特許」とは何であるかとか, 「特許権」や「特許を受ける権利」とかの話とか. ソフトウェア特許とかGNU GPLv3とかの話は書かない. いろいろ書けるほど詳しくない.

特許について調べると,「この会社のこんな技術は実は特許だったんですよ」とかいう話が出てくる. 例えば,この会社の特許はこれだけあって,例えばブラウザで実現するこの機能も実は特許でした!とかぼろぼろ出てくる. この時点で驚きがある. しかし,こういう場で挙げられるものは,特許の中でも比較的利用価値のあるものが多いと思う.

いきなりそんな「すごい発明」ができるわけではないので,やはり訓練が必要だし, 出願のためには,まずはある程度目を肥やす必要がある. ただどうも,どこの何を見ればいいかわからない上に, 法律用語と科学技術用語を含む「独特の日本語」の上に, 出願者のスキルのばらつきもあるようで, 自力だと厳しいことがわかる.

困っていたのでネットをつかって調べていたら, 『女子大生マイの特許ファイル』という本が良いとのレビューを見かけたのでを読んだ. これがなかなか良かった.

ベンチャー企業で働くことを夢見る理系の女子大生が, 弁理士事務所でアルバイトをすることになり, その際に調べた資料について弁理士の先生に説明してもらうという形を取っている. もしドラが流行った時期だからだろうか,表紙やタイトルこそ「もしドラ」風だが, 中に挿絵は一本もなく,ストーリーは本当に説明のためのおまけというくらい.

著者は,弁理士資格を持つ科学技術ジャーナリストとのことなので, 「弁理士が書いた特許に関する本」ということになる. 元々科学技術ジャーナリストをやっていて,その後弁理士資格をとったとのことなので, あとがきには「弁理士」資格の説得力について書いてあった. 僕としては科学技術ジャーナリストが,この本を書いたことに意味があると思ったけどね.

取り扱う題材がすべて良いというのがある. 説明する各トピックに合うように,そのトピックを説明するに十分な発明を取り上げている. 例えば特許について説明するのに,「優秀な発明」を使うのではなく「拒絶された発明」, つまり特許にならなかった発明を使うのもなるほど!という気になった.

その先の事項(例えば「進歩性」について)を架空の発明を使って説明することもできるが,あえて興味を引くような発明を取り上げているのが良い. 北野武堀江貴文孫正義らの発明と効くだけでも興味がわく人は多いだろう. かと思えばiPS細胞や青色LEDについてのこともきちんとカバーしてあり,なかなかの内容. その上,流石科学技術ジャーナリストというだけあって,発明者の方々に連絡をとって取材をしているというのもよい. どういう背景で出願されたのかという話も,理解の助けになる.

また,特許にならなかったものを挙げて,どういう点が問題だったのかとか, ただ発明するだけでは見えない,出願後のプロセスなどもきちんと記述されているので, 一通り知った気になって安心して発明することができる.

あくまでも読み物であり,レビューには入門書であると書かれていたが, 何も読まない場合や,難しい本を読む場合よりもよほど意義深いと思う. 出願書類を書くことは,頭でわかっていても難しいだろうし, 拒絶理由通知の対応は更に難しそうだなぁと思うので,このくらいで.

個人的に気になった点として, あとがきに

保守化している今の日本では、発明やベンチャー企業に興味を持っているマイさん*1のような人は、かなりレアな存在なのかもしれません。

と書いてあったが,学生時代からベンチャー企業に興味を持つ学生の多かった情報系に籍を置いた身としては,そんなことないんじゃないかなぁと思う. まぁ,「保守化=チャレンジをしない」という意味で考えれば,ベンチャーに行こうがどこに行こうがする人はするししない人はしないという感じのような気もしているが.

Amazonのレビューやブクログのレビューがきちんと説明しているのも良かった.

女子大生マイの特許ファイル

女子大生マイの特許ファイル

*1:引用者注:主人公女子大生